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第1部 一章 【財前姉妹】その1 第十一話 ストイックな女

作者: 彼方
last update 最終更新日: 2025-03-08 10:00:00

11.

第十一話 ストイックな女

 授業が終わり教室でアンが来るのを待つ。私はいつもアンが来るまで教室で待ってそれから一緒に帰るようにしてる。この学校は1年生の教室は3階で2年生は2階3年生は1階という配置なので私が1年生の教室に行くよりアンが2年生の教室に寄る方が自然だった。すると後ろの席のミサトから話しかけられた。

「ねえ、帰らないの?」

「あ、私は人を待ってるからミサトは先に帰っていいよ」

「彼氏?」

「まさか! ただの後輩の女の子よ」

「ふーん」

と、言いつつもミサトは疑っているようだった。私がソワソワしていたからかもしれない。でもそれは早く麻雀部に行きたくてソワソワしていたのであって恋人との待ち合わせとかではないのだが。

「ミサト帰らないの?」

「カオリの後輩を見てから帰るわ」

 するとその瞬間扉が開いた。

ガラガラガラ

「先輩お待たせ!」

 アンだ

「じゃあ私帰るからまた明日ねミサト」

 そう言いカオリとアンが帰ろうとするとミサトがついてきた。

「え? 私たち行く所あるんだけど……」

「それって私がついてっちゃマズイ所?」

「そういうわけじゃないけどー」

「じゃあ、連れてって。私カオリと友達になりたいの」

「ひとつ聞きたいんだけど。ミサトは麻雀ってやったことある?」

「ゲーム機でならやったことあるからルールは分かるけど、それが?」

「はい、決まり」

こうして、その日から井川ミサトが麻雀部に加わった。

◆◇◆◇

 自己紹介がまだだったので駅まで歩きながらミサトはアンに自己紹介をした。

「……あの、はじめまして、私は井川美沙都。名前の由来はミサの日に都で生まれたから。ミサトって呼んでね!」

「あたしは竹田杏奈です! 麻雀部で唯一の1年生。好きにこき使っていいんで! よろしくお願いします」

「麻雀部?」

「そう、私たちは麻雀部です。今から向かうのはその部室。麻雀は知性なくしては勝てないゲーム。知恵と度胸を試される真剣勝負でしょう。高校生が部活動にしても全く問題ない健全なものなはずなのにそんな部活はないじゃない? おかしいですよね。だから先輩は自分達で勝手に部活を作ったの」

 たしかに、麻雀はギャンブルのイメージはあるが他のギャンブルとはまるで違い100%頭脳戦だ。ギャンブルのイメージがあるものは大抵がバカでもタコでもできるようになってるが麻雀だけはそうはいかない。ゲームとしてとてもよく仕組みが考えられている最高クラスの頭脳ゲームだ。

「面白そうね。運動部に入って青春しようかと思ってたけど、あなた達とする麻雀の方が楽しそう。お仲間に入れてもらうわ」

 ミサトのふくらはぎはしっかりと筋肉がついていて陸上部だったんだろうなと思った。

 駅に着いたので3人は改札をくぐり、ちょうど今到着した電車に乗る。車内はガラガラに空いてて席は空いていた。

「ラッキー♪ あそこ3人分空いてるじゃん、座っちゃお」

とアンとカオリは座るがミサトはその前に立った。

「座んないの?」

「うん、鍛えてるから」

「へえ……」変わった人だねとカオリとアンは顔を見合わせた。

 ミサトは生物としての力を付けていくことが生きる上で最も必要なことであり、信仰はいらないし学習も二の次、まずは体力ありきだという考えを持っているストイック系美少女だった。

 後に彼女は護りのミサトという超一流雀士になるのだが守って逃げ切るその時にこう言った。

「守備力の高さは体力から生まれる」と。

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